奪われた手
静かにただ静かにそっと押し出された水面へそれは
波紋を描くよりもはやく小舟は確実にうつろいはじめた五月の空に喪服のよく似合う
高すぎて
電話のあった玄関に故郷から電話があったふるい幼なじみのあとさきはもうない電話を待ったすまいのうつろいをながめた玄関に電話はもうなかった
けれど空耳よながれる日々のあいだに保留音はながれうつろいゆく五月の空にこの旋律は高すぎて
静かにそっと押し出される歌声は高すぎてただ