雪により二時間遅れの便を待つあなたは鳥のかたちを真似て
 
 
 
 経由地で足止めを食らった。
 アムステルダム発東京行KLM八六二便は十七時半ごろようやく搭乗を開始した。
 
 窓側の席だった。
 離陸して雪の海を抜けるとすでに日は沈んでいて、深い橙色の残り火を雲間からのぞかせていた。機内は静かだった。東京は八時間先を東へ回っている。その時差を、これから十二時間かけて徐々に詰めていく。速度のなかに主語はいつしかまどろみ、眠りに落ちた。夜がやってきていた。
 
 気がつくと窓の外が明るいようだった。いつの間にか下ろしていたらしいシャッターをあげると、飛行機の左翼から青空があふれだした。
 地上にはツンドラが広がっていた。氷に覆われた山脈はうねり、凍てつきながらもなお蛇行する川に沿って、時間の残骸のように三日月湖がところどころ横たわっていた。
 
 手荷物から父のカメラを取り出して構えた。
 死んだひとのことを考えていた。
 
 雲の上は、どこも青空だった。
 
 着陸して入国審査を過ぎ、税関を抜けると、日本語以外は聞こえなくなっていた。けれどそれさえも異国のことばのように思われた。あるいは、音楽。意味はいたるところで欠落し、音の高低と長短、休符にかたどられた――
 売店で「おーいお茶」を買っておつりをもらったあとで、"Grazie."と口走ってしまって、"Ah, no, " 「いえ、なんでもありません」と訂正しなければならなかった。
  
 ホームへの道が思い出せず、立ち尽くした。
 
 
 
  青い鳥凍土に散ることなく()の帰るべき空をその羽で塗れ