天才



この時期になると金木犀の芳りが空へ
銀影の濃い糸となり
木立のひとつひとつからわき上がる

身投げを止めた彼らの広がりの中で
大気の 残存する夏の息が
手鏡が放りだされる その一景のうちに

どの家の窓もたしかに 寒く綴じられてしまった
 もう朝の明るいひびきだけが
閉め出された車輪が 暗く回転する

月のくちびるが干割れている
喧騒の一切は黙り込む
通りのまばたきが聞こえてくる

土曜の夜 九月の
 痛ましい静止がより添っていた