Nemo, 砂漠へ 原口昇平 ……、風のあるうちに、ぼくは眠ろう、 こわれている部屋の手のぬいぐるみの、白 壁に書かれた電話番号、の 通じるだろうか、 いま、窓からの風のあるうちに、 屋上が呼び出し音として、雲間から 額へ、射(挿す、花だ 階段を上レ、 お前は水平に動くエレベーター、誰を何人乗せて、 (通じない、)道を歩く、おーい帰ってこい、 (どこ へ、) ……、 そらをみるひと。 そしてとぶとり。 その日、その街に書きこまれた午後のはるかな空白の ひとりの一行。 177へ。 「傘が ない、 ……、 そこで、おまえというひとりの街角は永遠 に伏せ字のままだ。晴れのち匿名希望の天気があり、ぼ くは海の底から空を見上げてまた誰かを傷つけた気分に なる。 ……、 が ない 。 (おかけになった電話番号は (現在使われておりません。 うつくしい、 その日、その街で痛がった書体の雨がうつくしい、 ……、(2002/7/15 12:36:55) 昨日の埼玉・桶川→東京・千駄木間の移動 中、日暮里で降りて谷中墓地を抜けたのだけ れど、とても絵画的な光景が広がっていた。 閑散とした墓地に、初夏と青空と木陰はよく 似合う。 大学の住所は台東区上野公園12-8なのだけ れど、実は上野駅で降りるのと日暮里駅で降 りるのと、駅=大学間の距離はそう変わらな い。電車に乗ってる時間もあって、毎朝ぼく は日暮里から来ている。谷中墓地をいつも抜 けていくのだが、悠久の平安を感じるという か、やっぱり死んでいる人よりも生きている 人のほうが怖いものだなと思ったりする。墓 地にあるのはishiだ。卒塔婆もちらほら立ち 並んでいて雰囲気十分なのだが(罰当たりか な)沈黙のなかに身を浸していると、なぜか ふっと落ちつくのである。 ピカソの「石膏像のアトリエ」という絵が あって…そのまんま、石膏像のあるアトリエ の風景を立体派的な展開をしつつ描いたもの なのだけれど、左奥のほうに窓があって、そ の向こうにいびつだけれども純なあこがれの ように青空と雲が見えていて、美術館でこれ を見たときどうにも苦しくなってかなり長い 間その絵の前にいたことがある。友人に言わ せるとぼくはセンチメンタルということなの だが、確かにそうなのだろう。 どこへつながっているのか。谷中墓地の上 の青空、初夏。ピカソがぼくに焼き付けた、 遠い遠いひとすじの視線だ。 ……、 風。 (これは、"2002/7/15 12:36:55" の、 (見上げた、空へ と 書いた、 あなたの。消印、 (……、を 底へと(ねむり、 裂(咲 ける 、雪 (、往き ……、 浮上せよ。 Nemo Deum vidit. <<未だ神を見しものなし /ネモは神を見た、 かなしみの凪いだ日に、 (おかけになった電話番号は (現在使われておりません。 ……、艦長へ。 ぼくは日誌をつけるのを、こ れを最後に もうやめようと思います。……、(中略) アトランティスの空では、鳥は さかなのかたちをして います。やはりみどころですが、無風に散る花、マリン スノー ……、 (これは、いつの 風、 (……、を 底へと(ねむり、 裂(咲 ける 、雪 (、往き ……、 浮上せよ。 浮上せよ、ノーチラス号、 かなしみの凪いだ日の、谷中墓地の青空へと、 Nemoのまなざし注いで、風のあるうちに 越えていけ、(どこ へ、) 壁に電話しているか、 アトリエに書かれた腕、もはや誰のものでもない数字 の、おまえをまわしている、 投函される水平のエレベーター、(通じない) うすくはがした"在り"、あ (……、を 底へと(ねむり、 裂(咲 ける 、雪 (、往き ……、 それも。 (無風に、 散る 花。 ……かつて、 「無人、」 と、口にしたものが あった。 (……かつて、 無人、 (と、口にしたものが (あった。 ((……かつて、 |