殺戮の時代(U)      原口昇平



 
 
水はからだを拒まなかった。それはひとつの
再婚として、妻のもう開かなくなった空へ向
けて。途絶えなくつらなる休息。そして初夜
のことを
 
    思うだろうか。わだかまるための旅
を。暦のほつれを。やがてそこから水との日
々はあふれ、堰を切って趨るだろう。そして
私、そう呼ばれたひとはもう
 
             立ち去っていく
しかなく。息を切らせた死から。あとでの雨
は言葉としてのみ生きながらえる。降った、
それだけだ。そのころには誰も「かなしい」
なんて言葉は知らないだろう。それが
 
                 お前の
ねたみだとでもいうように。そうじゃない、
お前のかなしみ。誰も知らない。私、の複数
形をあらわす言葉は私たちではないから。影
だけが暗く川底にはりついて呟く。戦争、戦
争、戦争、青が

       足されて。

               

               やがて音も。
波紋はひとつにしか見えなかった、と。それ
が最期の言葉なのか。石たちはひとりひとり
で自殺していったというのに。もうひとつ、
花束がその婚礼のために供えられて。いちり
んずつの花ではなく。それもまたかなしい。
のよ。と、
 
     妻にはそうやって消印が押された
のだ。あとには流れてくだけで。

               あとには。