遠い関係(II) 原口昇平 そのまわりで ふと いくつもの扉が叩かれ しずまりかえった熱のひびきが お前の 灯という灯を眠らせるのだ 窓辺に散り落ちた文字の ひとつひとつに歯形をつけて 風に飛ばされることのないよう 秒針で そっと壁に縫いつける それがお前 秋のための時計になる お前は遠くから来た といっても この壁の向こうは知られていない そしてお前が誰なのかも 朝 たったひとりで駆け抜けてきた という 足音すら誰も耳にしていない その静寂のなかで 扉が叩かれる そんなことも眠らされてしまうのだ そして忘れたころにお前は咲く 私の建物のなかで いくつもの部屋として咲く お前は沈められる 夜には眠ればいい 羊は数えてやらなくてもいい 泣きながら一発ずつ撃ち込んで いとしい終わりを看取ってやらなくとも お前が眠ればすべて死ぬのだから (そして お前さえも) 朝 濡れ葉のカーテンを開ければ 冬の顔が映る ふと扉は止んで いくつもの足音があきらめて帰っていく だがひとりはそこにとどまったまま お前のことを呼び続けるだろう それが私だ この散りゆく不眠に埋ずまりながら いつまでも扉に濡れているお前の影が私だ