一月、しろく抜かれたゆびのあいだから      原口昇平

 
 
めまいという飲み物。はからずとも朝はひらきつづけた
いくつものゆうべを刻もうとした時計のあとに。
まだすこし夏の残るあわれみの耳を
すずしくも遠くへ差し出されたことは忘れて、

咬んで」というあなたのおとぎ話。記憶はいつも白だった
その寒さに蛍たちはこぼれ、さえぎられない温度へ傾くのだろう
けれどあなたはもう死ななくてもいい。あおい咳のなかでも
消されたり綴られたりしていさえすればすむのだから

それは誰の。夜のしばられたもうひとつの手で、
いくつものうごめきを記そうとした縄目のあとに。
惚けた群青の熱から、たちくらんでいく口で

咬んで」 たとえおとぎ話でも。それは闇に、雪ではなく
にじんでいたのは書き損ねたインクのこぼれではなかったか
とろけて。あなたはいつも手から飲み干したものばかりさする