海に行っても 何もなかったのだから
      正しい報告をしてはいけない


      肩から死ぬことができる日
      時間が 焼け跡に
      気づいて 割ってしまわないよう まわる
      欠けない坂を落ちる
      欠けない風から落ちる
      目薬になり 魚のなかへ落ちていけば
      ツチに そのさきが あるか
      何も見なかったことを 
      決めてくれればいいけれど
      ミズは ここまで来ることができないだろう
      スナが歩く
      そこまでの道はなくならない
      人が歩くと
      影がずるずる残る


      いちめん
      緑はミズで ミズは緑を呼んでいたか
      呼ばれて
      息をするのはむずかしい
      くぐるとべつのツチが広げられる
      くぐると戻ってこられない
      くぐると
      べつのツチにつつまれて
      帰って
      くぐるには


      ひとりで
      歩かなければいけない
      あわ立つ 足の下でクラゲがつぶれる
      ぎざぎざの鳥には会えないし
      アオの真似をして かたい草で結び目をつくる
      ヒが 白い輪郭をよこす
      背骨の薄くなるときには
      流れ着いた 針よりもすばやく歩かされて
      島が沈んだと云われる 底の 形状のはっきりしない
      湾 をはさんだ陸地
      のほうに
      球体が みっつ 置かれていることが わかる
      連続する水の揺れを波と呼ぶことはできるか
      海の砂は苦い
      海の砂に囲まれた 苦い
      海の砂に しばらくぶりの マヒルは明るく
      欠けた 腕の消えた月の足が生える場所がある 苦い
      暗いうち まだ
      地図では窪んでぼやけてしまう ここから
      キシだと思う そのむこうを伝って
      てれびの音 有名な音 聞こえて キシだと思う


      ミズは持たない
      スナは持つ
      イシは持つ
      ホネは持つ
      つねに体が
      つねに目が覚めるとつねに
      つねに


      地面に落ちるあたたかい目薬のように
      しゃがんだ姿勢で死ぬように
      腐った魚の ひたいのあいだのメの空洞へ
      ころげ落ちていく でも
      海のことは知らないふりで
      満ちるのが早すぎる
      溶けて岩に セルロイドだから
      べったりと 知っていた
      はず……、なのに 耳のない魚が 体を曲げて
      塩水の 膜にくるまれ
      尾ビレから 順に かわかされて いる


      ……


      ミズは
      ツチより 遠いところにある
      目の部分が空洞になった魚と
      干潟で貝をとる人を見た
      あまり幅のない防波堤の上を
      両腕を肩の高さまであげて
      ゆらゆら歩く