影狂い
死んだ人間は水を歩く
だから青いカラスの夏型は
生きた火のむこうへ飛んでいくしかない
白よりも黒く
青よりも赤く
陽気に笑いながら互いの顔に
葡萄ジャムの塊を投げつけて遊ぶ
そんな農夫のすぐそば
アンテナ刺して通りすぎる
夜になるまえに
世界の終わりが来るまえに
*
城壁こえて
舟に乗りこんで
花粉を振りまいて
ぷかぷか浮かんでる
外に骨を砕く音
中に肉を切りさく闇
あいだに鳥の落ちる森
ひっかくと悲鳴をあげる
*
火傷したら冷やすとよい
冷やせばそこに扉が生まれて
酔っぱらった魔物が出てくるから
昼には影を刺してもよいが
夜になれば
おまえが飲みこまれてしまう
顔のない魚ズズル
音なくて
空もない
ばらばら散らばる方向に
入ったまま出てこない
*
母の足を握りしめ
老人の顔した魔術師の子供
あやとりしながら
爪を剥がして宝石男に売りつける
川の流れは夜の虫になる
夜の虫は集まって影になる
双子の目玉を四つ
遠くに放り投げてはまた拾う
*
山の尻尾にいすわるカミに
ずらりと呪文を残していった
年輪を数えれば指が増える
指が増えればベロが青くなる
ベロが青くなれば呪文が増える
残した呪文は読まれない
読まれないから土になる
土が山になって
その尻尾にカミがいすわる
羅針盤を見てクツクツ笑う
*
犬のヌケガラ振り回し
地図に青いインクが垂らしてあった
キリンひとりで崩れた
やむをえず画家も崩れた
絵の中でもぞもぞ大きな蜘蛛が生まれた
空気がくるしい
草を刈る者は草に刈られる
例外なくして台風の夜は
納屋でユウレイ料理がはじまるが
ノドから降りた地下の教会
ぼくらは無言で集まって
それぞれの顔に印を描いて眠った
ミルクにはハエが泳いでいた
ミルクはぬるい地帯を運ばれてきた
湖は酒みたいなミルクだった
*
時間の外から吹いてくるものに
青白い砂の火は吹き上げられて
風車が時計みたいにくるくるして
カラスがぶつかって
これはこれ
それはそれ
刺青した岩の上にネズミが静かにいる
太陽が糸に縛られて
テントのなかに寂しくいる
これはこれ
それはそれ
ときたま虫をつぶしたりもするからな
狂いのやつ