挿話
昨夜、川辺に
青い人形が降り
静かに水を飲んだのを
見たか
ら、
尖ったトゲ草の女
群れて気づかれない
陸橋で目を閉じ
見えない腕を切り落とす
いつだったか車軸の音さえ知らず
南中しながら薄れてしまった
ということを忘れないため
点滅するノド
から重力よろけ
喪服の苔のカカトに踏まれた
すずやかな惑星の果ての
点と
、点
十一本目の指先
平野に描かれた点描に違いない
震えて
地の鳥の石とともに
クキキ、と鳴くマブタなしの動物が
わけ知らず溶けこんだ風
うなだれた黒い布を
真空のように撫ぜていく
(ふつふつ
かたく地面を踏みしめて
水脈に溺れた子供は
まじないを詰めこまれて
生まれた
が生きていない
夜を待たず
暖かく湿った
古い部屋でのこと
だった
まだ憶えている
死人が髪を垂れ
黒いガムを吐いて
くれた
暗い壁のすぐ
崖の一番手前に置かれた
足りないもの
見たから
それよりもなめらかな骨盤を
間違ったことを喋っていたか
昨日より昔
知らない言葉で
親しい巨人の起源が
ひとり
さらわれて
生まれない
殺される
老樹が
空を撫ぜた
洋燈を激しく揺すると
海に続く道すべて
夜の空が会いに来るようだった
遠く
汽笛が熱を告げている
なにも憶えていてはいけない
と
枯れた葉脈がさやいで言った
なにも憶えていてはいけない
水がこまかく震えた
老樹が
空を撫ぜた
(かぎりなく
煮えたぎっては
凪ぎながら冷たい
黒海
という
雨があるらしい
ページの片隅に生まれて
乳房を噛んだとき
それさえも伝聞
だった
まだ目をあけていない
銃撃された卵の内部の洞窟に
捨てられたナベには
濁った動物の腕が拾われた
草に隠されて微か
見えない穴がある
聞こえずに声は
いたるところ井戸の蓋を破って
たとえば
枯れたすべての森
子供たち向こうへ
屈葬した土器の目をしている
電気は心細げに空を抜けようとし
はじめの
心臓の
擬音を繰り返さなかった
(声、絶滅した鳥の
彩色をまぬがれて
岸には骨の家が立ち上がる
人形の沈む川
暗いホタルが飛びはじめ
その軌道は
暦法に逆らって錆びていく
戻る