青い火


      土のやわらかい感触がすぐしたにあるのはとてもここちよいものだ
      とは思うけどそこにいてはいけないよと呼ばれてふりかえるとタオ
      ルをあたまにかぶった老人のすがたをした案山子がぎゃらりぎゃら
      りと笑っているさまはもうまるで地獄に来てしまったのかと思われ
      る光景でとてもおそろしいゆめだった。すぐさま角笛を取り出して
      星よ走れとばかりにふきならしてやったその瞬間にだけ雨はやんで
      これはきっと愛のようなものであるなと思いながら井戸をのぞけば
      むこうがわからものぞきかえされてあなたは誰と尋ねられた。いや
      ぼくはぼくさここにむかしからすんでいる魔物のようなものだ、奇
      遇ねあたしもそうよどうしていままであたしたちであわなかったん
      でしょ、そうだねきっと山崩れの神様のせいさ。ぼくはうれしくな
      って老人のようにしゃがんで結婚しようと叫んだが彼女はとおくを
      見たまま老人のような声で食えるものはもうないぞ。はてそういえ
      ばもうすでに数百年もにんげんを見ていないしこれはよく考えれば
      戦争でにんげんたちは滅んでしまったんだなそうかそうかそれじゃ
      あこの砂はにんげんの骨かと井戸の底を足先でさらうと女のこえで
      けっこんしましょうと言われた。すこしわずらわしい気分になった
      けどもうすでに準備はととのっているんだからしかたがないし山頂
      の鳥居のところまで重い腰をかついで夢魔にあわせてやることにし
      た。そうだねぼくらには理解がひつようだほかのなによりも理解が
      ひつようだ。山の上から見ると地上には青い火がたくさん燃えてい
      る。あの静かにかがやく青い火の群れ。ぼくらの火もあれぐらいき
      れいに燃やさなければならない、そうねあたしたちは枯れているか
      らよく燃えるもの当然だわ。鳥居にこしかけて老人のように息をは
      きながらもう迷うことはないし永遠に火に包まれるにはぴったりの
      真夜中だね。ぼくらはあのさそりのようにきれいに燃えるんだね。
      地上もすばらしく豊穣につつまれたゆたかなてんごくになるんだ。