白路 南から七月 美しい船を知っている その飛行 のどに浅くつきつけて すべて眼のあとに満ちていく 古びた風を眠るのだと 屋上は 地面より空に近いだろうか 七月について たとえばそんなふうに ささやかに咲いた文字の散りゆく日 あの堅固な建物から 落下の手をひろげた体系について どんな文字のうえにかぶせても 新しくならない冠について 七月について あの日 溟沐のゆらぎからさむく 復員してきた少年があり 建物のあいだの どこを通ってきたのかさだかでないが いつしか忘れた大陸をゆめみて せめて白とだけ呼んでおいた 路は消えていたのを やがて 南から私は狂いはじめ まなざしが閉じて吹いてくる 美しい船はそれに寄りそって 昏めきながら愛しはじめるだろう 夜には眠ればいい 少年ののぼった屋上のことは また銃声がすぎれば忘れる そんな私のかきむしった物語のあとに たった一発の秋がわだかまっている