先に行った人から聞いたソネット
 
 
 
もう帰ることはない
そう思っていた人の影がひたすらに伸びているのを
そこの曲がり角で女は見つけた
ここからあまり遠くない日

もの悲しいたたずまいで
その復員を果たす男の目がひたむきに探ったのは
あの船底から見えない未来
この私へ流れる今だ

天気雨、止む前に軒先から走り出した子どもの
高い声も群れる残像も遠く伸びてあの彼方へと
かき消える幾筋もの運命線をほころびた靴で踏みたどり

ばたばたと人の倒れゆく音を立てながらはためく旗、あるいは
おまえの手のひらに包まれたそのなかをいっぱいに満たす沈黙の零度を
一心に暖めようとする、冬の殺戮の時代がふたたび