XI
すべての鳥は地平線のあわいに帰る
何も残らない
かなしいことも
ふたたび老兵の傷のように開きはじめる春
XII
「ほどきに来た
古い世界についてのもつれた掌編を
彼の斬首ののちに着せられた旗の結び目を
鳥たちのやさしく囚われている最後の地平線を
ほどきに来た」
XIII
(ひとりが雨の行間を読もうとしていた
もうひとりはその余白を見つめていた
三人目は詩を書き込んでいた
すべての頁が晴れ上がるまで)
XIV
灰皿のなかで
ひとつの挨拶をスローモーションで発音するように
侵されていった肖像の
金属的な残響にえぐられた
面影がいまだに脳裏を足音もたてず歩いて
XV
さまよう風には
夢見た胡蝶の亡骸が遠く伏せられていて
梅の痛む季節を千切って渡しているから
古い恋占いをしているのだと思われている
XVI
黒い問いが裸の枝に休んでいる
濡れた問いが無数の手に開かれている
走り出した問いが夜を裂いて人々を運ぶ
(答えのための比喩はなかった)
XVII
電線に慣れた鳥たちが
句点の影を落としていた
「断言された空は美しくない」
それもまた言い切られているので
背骨を疑問符のかたちにして歩いた
XVIII
その石柱には碑文が遺されている
まだ解読されていない
ひとびとの手足と交差して落ちていた影は
もう誰もいない時刻を精確に指している
太陽に洗われて
XIX
(あの影はいくつもの日を指して伸びた先に
平行線の交わる季節に
ついに名前のない花をつけるのだ
そう語ったのが誰だったか
まだ解かれていない蕾型の文字)
XX
老兵の春は死なずただ去りゆく
長年にわたる職務のなかでついには
何を護っていたのか誰からも忘れられていた
秘めごとを啄ばむように黙礼してから
永遠に帰ってくるために、帰っていった