LXXI
すぐに閉じられる 雨 縫われつつひらかれる手術傷   誰にも気づかれないように抜き取ろうとしている          
LXXII
三つ編み  追伸 ほどかれるまえに四月は          
LXXIII
感嘆詞 眠らずにすくいつづける          
LXXIV
黒髪を引用せず          
LXXV
遠くにいれば 遠くにいて 遠くにいる   音を立てずに沸騰する桜          
LXXVI
春だからとひらくのは止せ 誰にも見られないうちに破り捨てて 声を押し殺せ          
LXXVII
光があれば洩れる 消せ 隣室へいたる前に          
LXXVIII
ひとさし指はぼくの墓か          
LXXIX
車内 やわらかい子音のつくる ひだまり ことばを選ばなくても 内耳はひとしく記憶に濡れた          
LXXX
空よひらけ この画布の前より 最初に立ち去りし青年のため