復員            原口昇平

 
 

 
盲いた瞳は青空を見た。一点の曇りもないと
書くといささか心苦しいので私は白く汚しを
入れながら女は、確かに青空を。駅のホーム
ではひとに押されて転落しそうになり、路上
では発車しはじめたトラックに轢かれそうに
なり、そんなフィルムがあったことは小学生
のころの話で私ももうあまり覚えていないの
だが、先日
 
     大学では何をやっているのか、と
問われて危うく「心理学を」と答えるところ
だった。この間の芝居のことは早く忘れたほ
うがいい。私までもが誰かを殴りつけるわけ
にはいかないのだ。青空をまたひとつ誰かの
閉じた眼に宿すなどそんな残酷なことは。ど
こかで戦争が起こっているとして、そしてそ
れが私のついた嘘のせいではないとしても。
きっと銃を捨てないひとは恋人を失った日に
いつまでも青空を見ているタイプだ。そして
真っ先に
 
    飛び込み前転で肋骨を折ったという、
ごくありふれたエピソードを持つ友人との再
会だ。昨日成人したとかで、初めて合法的に
酒を呑めると嬉しがっていた。女の座してい
た時間は私のそれとは違ったところにあった
ということだけがよくわかる。語られない言
葉は沈黙として片隅にたたずんでいたが私は
それをこの世界に書こうとは思わない。ただ 
 
 
 
青空、遠くで女の貫いた戦争の
うえにはいつも。そして口に
した。「ここは
静か
、という言葉のなかに
 
ある沈黙には
いつも青と争いがあるのだから。