〈問い/跳躍〉の先で、ぼくらはどこにいるのか(続)
 
 
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(承前)

洛陽 原口くんにとって、とりあえず今後の痙攣がどう
 なるかはわからないので、第一期の痙攣って言うのは
 なんだったと思う?
原口 難しいですね。ぼく個人にとっては、少なくとも、
 わずかに姿を変えながら現れ続けるほのかな幽霊のよ
 うなものだったと思います。
洛陽 ふむ。となるとよくわからないのだけれども、ど
 ういうことかな。もうすこしわかりやすく。
原口 内面的な価値というのは、いつも問い直すのが難
 しいですよね。たとえばある日の夕方、自転車をこい
 で駅から帰る、その経過の、内面的な価値とはなんぞ
 やと自らのこころに問いかけても、答えが返ってこな
 い。
洛陽 うん。たしかに。
原口 対外的な価値はいくらでも見出すことが出来ます、
 他者になったつもりで(そんなに簡単なことではあり
 ません、とても難しいことですが)、ぼくたちはある
 類の働きかけをしたし、また種を蒔きました。
洛陽 じゃあ質問の仕方を変えてみよう。原口が痙攣に
 参加するということは、どういう意味をもっていたん
 だろう。自分のサイトを持ちながら、定期的に痙攣と
 いう場所に作品を提出するということは、なんだった
 んだろう。
原口 ぼくは痙攣という場所で、あらかじめ決して達成
 されないと決まっている何かの実現を目指したのでし
 ょうね。ぼくたちのテーゼ…「表現のための表現」に
 「沿ったもの」を目指したということではなく、表現
 のための表現を、ぼくなりに行ったということですね。
 それはいつも、立ち現れるか、立ち現れないかのあわ
 いで切り結ぶものを、ここに書きつけようとすること
 でした。
  それにあたっての求心力が、「痙攣」には、あった。
洛陽 うん 良い答えだ(笑)
  冗談めかして言ったけど。そうなんだ。ぼくらが、
 すくなくともぼくが目指したことっていうのはいま原
 口くんが言ったことに内包されている。
原口 跳躍ですね。ただ無謀な、けれど確信を持った、
 ひとつの跳躍でした。
洛陽 うん。そしてね。どうしてそれをひとりでするの
 ではなく、同人という形態が必要だったか、というこ
 とについて、ごく少数だけれども、ぼくらの読者は疑
 問に思っているかもしれないだろうね。
原口 そうでしょうね。ですが、ひとりの、ひとつずつ
 の跳躍、闘いよりも、同人という形を取った方が、内
 部でも或る(相容れない強度の)交通を持つことが出
 来たし、外部に対しても、強い斥力を放っていたと思
 います。その点で同人という形態をとることは、有意
 義だったと思いますね。
洛陽 そう、そしてそれはでも、対外的なことだよね。
原口 そう、そのように、外へと通じていくわけですけ
 れども。
洛陽 ぼくは個人の表現の為に同人という形態が必要だ
 ったんだな。と最近気づいたんだよ。
原口 個人の表現の為に、決定的に確保しなければなら
 なかった場所ということですね。わかります。
  よそでは関係性の網の目へとからめとられていくの
 に対して。
洛陽 ぼくはぼくの表現をするために ただひとりでや
 っていくこととは別の形態が必要だった。
原口 ええ。
洛陽 投げ出された他者 がね。
  表現というときに、それは単なる自己の発露ではな
 いでしょ。
原口 もちろん。
洛陽 うん。そしてぼくにとっての表現は他者に届け!
 と言うものでもない。
原口 それ以外の何か、というよりは、それらをすべて
 含んだ何か、ですね。
  一瞬の劈き。
洛陽 うん そうだね
  ぼくの表現というのは、ぼくが生きていることをあ
 らためて生きなおすことに近いかもしれないのだけれ
 ども、その生を先に先に送ってやるためには、どうし
 ても個の内部のみでやっていくわけにはいかないんだ。
原口 個の内部だけでは、いつか静止してしまいますか
 らね。
洛陽 そう、独我論でやっていっても、それは生きた世
 界じゃない。
原口 実際、ぼくらは、生きているわけですからね。
洛陽 だから或る意味では他者を必要とするんだけれど
 も
原口 依存はしない。
洛陽 読者に対しては誠に勝手ながら、投げ出している
 わけだ。
原口 ええ。
洛陽 そして、同人というのは何かというと
  自分の背中を見ることに似ているかもしれない。
  決して見ることの出来ない自分の背中を、仮想的で
 はあるけれども、自分の眼で見ようとすること。
原口 外にある自分の背中を見るのではなく、この肉の、
 この身体の、この背中を見ようとするわけですね。
洛陽 そう、そうなんだ。鏡に写したものではなく、生
 きているその様を見たいわけなんだな。
原口 ぼくたちはひとつの終焉を迎えましたが、それは
 ただの区切りに過ぎず、またこの背中を見るときが来
 るのでしょうね。
洛陽 うん そうだね。そうだといいな(笑)
原口 さて、まだ語るべきことが残されているとしたら、
 なんでしょうか。
洛陽 今後、かな。第二期はどうなるんだろう。とか。
原口 やはり、第一期で提示したテーゼは、変わらない
 のでしょうね。あとは、もしも第二期をやるとして、
 各同人が「痙攣」という場所でほんとうにどうしたい
 のか、積極的にコミットし続けることでしょうね。そ
 のなかから自然に立ち現れてくるような気がします。
洛陽 そうね。ぼくが痙攣に存在しつづける限り、テー
 ゼは変わらないんだろうな。ぼくの目論見としては、
 ぼくがいなくなっても、痙攣が存在する、という対外
 的な野望があったりもするのだが(笑)、それは置い
 ておくとして。
原口 そんな野望を抱いてらしたんですか(笑)
洛陽 そりゃもう、企画としてはそういうことを考えま
 すよ。表現とはべつにね(笑)
原口 でもそれが実現されるべきでしょうね、発起人不
 在でも生成し続けるくらいの緊張感を持った空間とい
 うのが。同人とは、そうあるべきなのでしょうから。
洛陽 そうなってくれたら発起人として嬉しいしね。
原口 まあ、第二期をやるとしたら、同人の間である程
 度そんな関係を築きたいわけです。内部での交通を、
 刺激のやりとりを、これまでより積極的にやっていく
 というか。コミットが少なかったのも、第一期に起こ
 った停滞の、ひとつの要因だったでしょうから。

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