* (花‐楽)
 
 



心臓の古い歌がくちずさまれた、
小さな 小さな夜に

距離は距離のなかで眠るもの、
約束を 空を叫ばない
 だからあなたはうつ伏せにされた、
 わたしの声はうつ伏せにされた。

百年がすぎる。
あなたの窓にわたしは咲く
わたしは死なない
 この薄明かりのなかでくちずさまれるかぎり、
もはやすべて 小さな夜の距離について
 書きためたひと
綴じてゆくゆめ
うつ伏せのあとがき ひらきつづける
、空。



  *



 あとがき(「テーブルの上に並んだ朝食」について)
 あとがき(「空席」について)
 あとがき(「ベッド」について)

 あとがき(「ベッドに横たわる」について)

     (「ベッドに横たわる   」について)
     (        「   」について)

              「   

              「   


あるいは
もう 呼ばれないからだ
閉じられることのない
括弧の向こう



 *



川は書く
川は饒舌だ

手を流す
手は書かない
無口なままだ



 *



(……/あるひ、ひかり/いたずらにうたわれたままの
/とりをかえしてやろう。/しのからだから/てをよみ、
/あしをよみ/くちびるをよんだところへ、/あなたの
とりはかえっていく。/わたしたちが/わたしたちをう
しなったときからはじまり、/おどりながらやがてしぬ
うたをつれて。/あのひ、とびさるものだけが/おもい
だされることについて、/つながれたものだけが/わす
れられることについて、/たたかわなければならないと
/いった いってしまった、わたしたちの/むきめいの
しとあい、/ここにふたりはねむり/ゆめのけむりをは
ばたきながら/とおくせいきのように/ものがたりのな
かのあいぶにかえるだろう!/えいえんのめざめ!うた
はうたわれたのだ/しずむくにぐにとのさかいをせにし
て/きょう(わたし)はかえっていく、/あなたのとり
がかえっていく、/むすばれたいとをほどいても/ほど
いてもむすばれつづけるわたしたちの/わたしたちがす
でにいとであることが、/ものがたりのしのいとである
ことが、/どんなにかうしなわれたはんぶんの/(わた
し)だったもののてのためになるだろうか、/……)



 *



朝に沈む
目覚めるものは




 *




手、あなたのものになる
枯れた比喩が
腐っていくだけの季節はここにおわり
まぶしさが約束の窓という窓を開ける
眠れ三月
眠れ三月
わたしは死ぬ
わたしは死んで
   のふたりの心臓の日がかえってくる