幸福論
 
 
机の上の観葉植物に
傾けて
 
こぼしてしまう
拭きとっても
緑
電話をかけようと携帯を
取り出したりしない
 
八月六日
割ろうとして確かに胸郭を
叩きつけた
できればもう水は飲みたくなかった
 
根を凍らせないように冬には
 
がらんどうには
おしながされない残響があった
もはや草木は生えないと
いわれていた
 
いまは
 
グラスをにぎる
蛇口をひねって
 
とめる
グラスは満たされ
 
そして日向へ
 
 
 
*
 
 
 
しぶきを立てて
走り抜けていく
時間
 
飲みつづけても
 
このゆらぎでは
まだまどろむことができない
耳
玄関に置いてある箱からじゃがいもを取り出す
芽が
生え始めていて
 
確かに流域がつづいている
 
ああこの鼓膜は白い国の寒さを知らない
水はそこでも夢を
聴くのか
いますぐ電話を
かけたりしない
日向へ
 
日向へ
 
 
 
 
**
 
 
 
 
 
薄く斜線で消しておくこと
語りえないこと
何度でも語りなおすこと
 
表面にまだらが出ること
しばらく減らすこと
底を手のひらに包んでベランダに出ること
そして日向に
ひとすじ貫かれた未完の動詞をなぞりつづけること
 
忘れないこと
忘れること
忘れたこと
思い出すこと
生きること